魔法の言葉

東風平高根FANCLUB『相思樹』

2022/02/26 14:28

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「はっさ、あんたちゅーばーだねー こんなことしたら大人でも泣くよー でーじちゅーばーさー」


小学校4年の時に、全体集会が運動場で開かれるちょっと前に、テニスコートのネットを高跳びして遊んでいた。同級生の女子美奈子がそれを見て「男だったら、端っこの1番高いところ飛ばんとー」

ネットは、真ん中が垂れて低くなってる、そこを男子が飛んでいたから、美奈子はそう言ってきたのだ。「簡単さー、飛べるさー」そう言って、僕は端っこを攻めた。見事に足がネットにひっかかり左腕から思いっきり地面に落ちた。「引っかかったさー 飛べんさー あはは」

腕は激痛で真っ赤に腫れた上がった。飛べなかった恥ずかしさで、「痛い」とも言えず、集会の間約1時間痛みに耐えていた。

集会が終わって、先生に腕が痛いことを告げると保健室に連れて行かれた。「折れてるかもしれないねー」保健室の先生に応急措置をしてもらってる間に、母がかけてつけてきてくれてそのまま病院に行った。

これが、僕が最初の病院だ。


病院に行ったら、にぃにぃお医者さんとおじぃお医者さんが二人いた。

「あい、赤くなってるさー。転んだの?」にぃにいお医者さんは声が大きい。人見知りが激しかった僕は、そんな事聞かないでいいから早く腕を見てくれと思いながら、「テニスコートのネット飛ぼうとしたら引っかかって。。」ボソボソと蚊の鳴くような声でなんとか答えた。「テニスやってるの?俺もテニスやってるんだよー」にぃにぃお医者さんはとにかく明るい。僕は慌てて「あ、テニスはやってないけど、高跳びして遊んでて」「あ、そうね。痛かったねー」

おじぃお医者さんは、しわがれた優しい声で「じゃあまずレントゲンとってみようねー」

もう自力では腕が上げられない程になっていた。痛いってもんじゃなかった。

 おじぃお医者さんがレントゲンを見ながら「これ折れてるねー、ギプスしないとダメだねー」

やっぱり折れてるんだ。ギプス??

おじぃお医者さんがにぃにぃお医者さんに指示して、僕の手首の方を掴むように言ってる。

「ちょっとだけ痛いよー我慢してねー」

「せーの」そう言って、おじぃお医者さんは二の腕の方を引っ張って にぃにぃお医者さんが手首の方を引っ張って、綱引きの要領で互いに引っ張りあったのだ。

グギッ!この世のものとは思えない痛みが走った。

「ぎゃーーーー!」

「ちょっとだけ痛いって言ったさぁ。。」心の中で叫んだ。身体中から汗が噴き出て、さぁ泣くぞ、泣くぞーってまさにその時、おじぃお医者さんがにっこりと

「はっさ、あんたちゅーばーだねー こんなことしたら大人でも泣くのによー でーじちゅーばーさー」(強いね、こんなことしたら大人でも泣くよー、とっても強かったね)って言ってきた。「だからよー、ちゅーばーだねー」にぃにぃお医者さんが続いた。「え?ちゅーばー?俺ちゅーばーなの?」不意をつかれた僕は、とっさに泣くに泣けず意地で涙をこらえてみせた。心臓がバクバク唸っている。それから左腕は石膏で固められた。

「はい、もう大丈夫よー。1ヶ月くらいしたら治るからそれまで固定しとこうねー。」にぃにぃお医者さんがギプスした手を首から紐で吊るしてくれた。「どうもありがとうございます」母が何度も頭を下げていた。「治ったら一緒にテニスしよーなー」でかい声だ。だから、テニスはやってないって。。。

 帰り道、母親にどんだけ痛かったかを話し、それでも泣かなかった自分の強さを誇らしく語り、なんだかいい気分で家路に着いた。

その出来事は僕を病院好きにさせた。お陰でちょっとした怪我でもすぐに病院に行く習慣ができた。にぃにぃお医者さんとおじぃお医者さんのにっこりと「ちゅーばーだねー(強いねー)」と言った魔法の言葉が、今でも僕に勇気をくれる。

次の日、ギプスを巻いて登校したら、「男なら端っこを飛べ」と言った美奈子が僕に謝ってきた。「ごめんねー、私が高いところ飛べって言ったから」

僕はにっこり答えた。「大丈夫さー、1ヶ月くらいしたら治ってるってよー」


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