大器晩成 前半

東風平高根FANCLUB『相思樹』

2022/01/15 14:44

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2022年は、去年の暮れから続けているダイエットと共に始まった。僕はテレビを付けることに興味がないもんだから、年末の特番だろうが年始の番組だろうが見ることはほとんどない。毎年だけど大晦日とは言え22時には消灯した。今年は少し勝手が違くて、お腹が空いてるもんだから一にも早く寝たかった。先週のエッセイに書いたように新年9日にある駅伝までに体重を5キロ以上落としたかったのだ。こうと決めたらこうする性格で、こうと決めるまでの決断時間は毎年長くなっているのは仕方ないことで、なんでも楽な方に楽な方に舵を取ってしまう。2030代の頃は石橋を叩く前に渡っていたし、失敗こそが財産だ!って何事も恐れずに財産ばかり増やしていた時は、精神的な浮き沈みが激しく、自分を好きになれずに物事が上手くいかないことを人のせいにして、行き当たりばったりのやけっぱちだった。

 小学生の頃に従兄弟から車に貼るようなステッカーを貰った。ツッパリって言葉が大流行りの頃で、漫画もドラマも音楽もネコも総ツッパリの時代は、よろしくを夜露死苦と書いた。アイラブユーは愛羅武勇で、本気と書いてマジと読んだ。従兄弟は一つ歳上で、車に貼るわけでもましてや運転するわけでもないのに、この4文字ステッカーを沢山持ってて、好きなのを一つあげると言ってきた。僕が選んだ言葉は、大器晩成だった。意味はわからないがなんだか文字の格好が良かった。よく食べていたクランキーチョコみたいな茶色の色使いに、シルバーで大器晩成と書かれてある。家に帰って母に「これなんて読むの?」と尋ねた。「たいきばんせい」「どう言う意味?」「そうね、大きな器は完成するまでに時間がかかるって意味かしら」

「ふーん」納得できたのかは覚えてないけど、部屋の1番目立つところに貼った。

 

 僕がクラウンレコードからメジャーデビューをしたのは2004年の11月。34歳と11ヶ月、もうほとん35歳になると言う時で、随分と遅いデビューなんて言われた。デビューの時も「アーティスト写真を撮るからもうちょい痩せられるか?」みたいなことで、3週間で7キロ痩せた。食いしん坊はダイエットと切れない関係を続けていくものだ。

 35歳なんて相当若いし、知識も経験も大してない行き当たりばったりの人生にウムイウタはヒットしなかった。「デビューしたら人生変わるぞ!パジャマでコンビニ行けなくなるし、寝癖つけて自販機でジュースも買えんくなるぞ」って言葉はいっこうに現実にならない。「もうちょい垢抜けれないか?」直ぐに髪を金髪にしてピアスを開けた。「ORICON50以内に入るまでは俺タバコ辞めます」と宣言したっきり一度をタバコを吸っていない。

 本気で売れることを話し合ってきたプロデューサーがこの18年の間に3人も亡くなってしまい、僕はいつしか「売れる」ことに興味がなくなった。書く曲は全くヒットとは無縁のもの、商業ベースには乗らない自分の世界だけで満足できるものへと変わって行った。


 年賀状が届いた。関東沖縄経営者協会会長の新垣さんからだ。「今年は紅白出るぞ。強い気持ちを持て!」僕はガツンと頭をぶたれたようだった。夢を捨てて、がむしゃらさを忘れてのほほんと適度に上手く呼吸してる自分がいた。

 ソロで活動する様になり、僕は方向性を変えた。「road to the BDK」と題して武道館ライブを目指した。結局は武道館の半分のキャパのホールのその半分も集客できずに、大きな借金を作ってしまい心も完全に折れて、方向転換せざるを得ず「小さいとこらからコツコツと」精神に還り、借金返済のために歌うことが増えていった。


それから6年経つ。


(次回へ続く)

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