今日ラジオで紹介した 山之口貘の詩

東風平高根FANCLUB『相思樹』

2021/08/23 07:33

フォロー

      弾を浴びた島


島の土を踏んだとたんに

ガンジューイとあいさつしたところ

はいおかげさまで元気ですとか言って

島の人は日本語で来たのだ

郷愁はいささか戸惑いしてしまって

ウチナーグチマディン ムル

イクサニ サッタルバスイと言うと

島の人は苦笑したのだが

沖縄語は上手ですねと来たのだ

     


ガンジューイ~「元気か」。挨拶語。

ウチナーグチマディン ムル~「沖縄方言まで みな」 イクサニ サッタルバスイ~「戦争にやられたのか」

   

     座布団


土の上には床がある

床の上には畳がある

畳の上にあるのが座布団でその上にあるのが楽といふ

楽の上にはなんにもないのであらうか

どうぞおしきなさいとすすめられて

楽に坐ったさびしさよ

土の世界をはるかにみおろしてゐるやうに

住み馴れぬ世界がさびしいよ

      


     借金を背負って

 

借りた金はすでに

じゅうまんえんを越えて来た

これらの金をぼくに

貸してくれた人々は色々で

なかには期限つきの条件のもあり

いつでもいいよと言ったのもあり

あずかりものを貸してあげるのだから

なるべく早く返してもらいたいと言ったのや

返すなんてそんなことなど

お気にされては困ると言うのもあったのだ

いずれにしても

背負って歩いていると

重たくなるのが借金なのだ

その日ばくは背負った借金のことを

じゅうまんだろうがなんじゅうまんだろうが

一挙に返済したくなったような

さっぱりしたい衝動にかられたのだ

ところが例によって

その日にまた一文もないので

借金を背負ったまま

借りに出かけたのだ



     生活の柄



歩き疲れては

夜空と陸との隙間にもぐり込んで寝たのである

草に埋もれて寝たのである

ところ構わず寝たのである

寝たのであるが

ねむれたのでもあったのか!

このごろはねむれない

陸を敷いてはねむれない

夜空の下ではねむれない

揺り起されてはねむれない

この生活の柄が夏むきなのか!

寝たかとおもうと冷気にからかわれて

秋は 浮浪人のままではねむれない

ページを報告する

コピーしました

有料会員になるとオーナーが配信している有料会員限定のコンテンツを閲覧できるようになります。

東風平高根FANCLUB『相思樹』 ¥720 / 月

会員登録する

コピーしました